「主語と述語の対応」、もう少し正確に言うならば、「文の最初の方と最後の方の適切な対応」――文章作成において、もしかしたらこれが最も大事な基本で、そして最も間違いやすい部分かもしれません。今回は、文の冒頭の「〜は」には要注意、ということを解説します。
間違い(というか、あまりよろしくない)例から紹介していきます。
(例文1)就職の際の志望動機書の場合。
私の志望動機は、御社が一昨年に新規に設けた海
外事業部門において、学生時代に身に付けたリーダ
ーシップと語学力が生かせると思い志望しました。
一瞬、「どこが変なの?」と思われるかもしれません。もしかしたらこれで特に違和感ないかも。でも、やっぱりこの文は、基本がおかしいのです。
(例文2。例文1を修正したもの)
御社が一昨年に新規に設けた海外事業部門におい
て、学生時代に身に付けたリーダーシップと語学力
が生かせると思い志望しました。
例文1と例文2でどこが違うかというと、例文2には例文1の最初の「私の志望動機は」がありません。
問題点:
例文1では、今回のテーマである、「主語と述語の対応」がうまくいっていないのです。
例文1はまず、「私の志望動機は」で始まってます。これが主語のように思えます。
でも、文の最後の方の部分は「〜と思い志望しました。」という風に終わっています。
つまり、縮めると、「私の志望動機は〜志望しました。」という、文として意味がヘンな、おかしな構造になってしまっているのです。
最初の「私の志望動機は」にぴったりと対応する、行き先が無いのです。
主語と述語がうまく対応していないのです。
では例文2では主語と述語がうまく対応しているのか?
実はこの例文2には、最後の「志望しました」に対応する主語がありません。省略されていると考えることができます。
(日本語では主語が省略されることがよくあります)
あえて主語を付けるなら、
(例文3)
私は、御社が一昨年に新規に設けた海外事業部門
において、学生時代に身に付けたリーダーシップと
語学力が生かせると思い志望しました。
という風に、最初に「私は」と主語を置く手もあります。縮めると、「私は〜志望しました。」という構造で、こちらは主語と述語が対応しています(ただし、主語と述語が離れすぎという意見もあるかもしれません)。
ややこしくなってきたのでまとめ直します。もう一度同じ例文。
(例文1)
私の志望動機は、御社が一昨年に新規に設けた海
外事業部門において、学生時代に身に付けたリーダ
ーシップと語学力が生かせると思い志望しました。(←間違い)
⇒最初の「私の志望動機は」という言葉の行き先がありません。
さらに同じように間違った構造の例文です。
(例文4)
この新型スマートフォンの操作方法は、添付のマ
ニュアルに従って操作してください。(←間違い)
⇒やはり「操作方法は」という言葉の行き先がありません。「操作方法は〜操作してください」という風にヘンな結び付きになってしまっています。
(例文5。例文4の修正)
この新型スマートフォンは、添付のマニュアルに
従って操作してください。
例文4の「の操作方法」を削っただけです。
(ただし、ちょっと難しいのですが、この場合は「この新型スマートフォンは」は主語ではありません。でも、こうした場合でも、適切な「行き着く先」がちゃんとあるかを確認するのは同じです)
もう少し、間違いの例を挙げておきます。
(例文6)
当日の会議の主な内容は、代表スピーチ、ゲスト
スピーチ、パネスディスカッション、質疑応答など
を行います。(←間違い)
「主な内容は」→「行います」のつながりがヘンです。
(例文7。例文6の修正例)
当日の会議の主な内容は、代表スピーチ、ゲスト
スピーチ、パネスディスカッション、質疑応答など
です。
(例文8)
私が勤務している凸凹商事では、お客様の業務に
精通したエンジニアがお客様のご要望に合ったシス
テムをつくり提供している会社です。(←間違い)
「凸凹商事では」→「提供している会社です」のつながりがヘンです。
(例文9。例文8の修正例)
私が勤務している凸凹商事では、お客様の業務に
精通したエンジニアがお客様のご要望に合ったシス
テムをつくり提供しています。
文章を書く時、まず「○○は、」でつい始めてしまいがちです。これはこれでいいのですが、その部分が最終的にどこに行き着くか、ちゃんと対応する述語があるのか、それに十分注意しないといけません。
対策としては、「文章を書いたら、ゆっくりじっくり読みなおす」ことが挙げられます。これに尽きるかもしれません。そして、「○○は、」などの言葉が、きちんと適切な述語などに結び付いているか、それを確認しましょう。
特に、1つの文章が長くなった場合は、文の最初と最後がうまく対応しなくなってしまうことがよくあります。
また、面白いのは、これらのミスは「ほんのちょっと直すだけで正しくなる」という点です。表現を変えるというよりも、何かを削るだけでよいという場合も少なくありません。よく見直しましょう。
(主語とは何か、主語ではなく主題としての「〜は」などについては、またあらためます。とりあえず今のところは漠然と「主語と述語の関係」ということにしています)
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